熱流板とデータロガーを使用して建物の熱性能(U値)を判定するには、コースターほどの大きさのセンサーを壁の内側の面に接着し、通常は3~7日間(構造物の熱容量に応じて)設置したままにする必要があります。内部および外部の空気および壁面の温度測定のため、プローブも必要です。このプロセスは作業の妨げとなるうえ、時間とコストがかかり、最終的にはセンサーを設置した特定の一点での熱流しか測定できません。壁は本質的に不均一であり、例えばモルタルの継ぎ目や壁タイの上にセンサーが設置されると、代表性に欠けるデータとなる可能性があります。
U値をより速く、正確に測定する方法としての赤外線技術
調査に必要な時間とコストの問題に対処し、個々の点ではなく壁面全体の熱損失の測定というニーズに対応するために、BTSによって共同開発されたのがHeat3Dです。このシステムは、建物要素の熱抵抗と熱貫流率の現場測定について規定したISO 9869-2に準拠しています。この規格のPart 2では、赤外線 技術の使用について具体的に規定されています。
Flirの赤外線サーマルカメラは、主に検査目的で 建物調査士に長年利用されてきましたが、BTSはこの革新的な技術の新たな応用先を、Heat3Dで開拓しました。Flir One® Pro を他の特製ハードウェアや独自のモバイルアプリと組み合わせることで、壁面全体の温度を推測するだけでなく、壁の実際の熱伝達速度も推測することが可能になります。
「この特許取得済みの新しい技術の可能性について、評判は急速に広まっています」と、BTSのマネージングディレクターであるLuke Smithは語ります。「すでに多くの施設や不動産で利用されており、その中でも建築的・文化的なランドマークであるウェストミンスター寺院は特に注目に値します。」
ウェストミンスター寺院、エネルギー効率の改善に向けてHeat3Dを検証
ウェストミンスター寺院の敷地内にある多様な建物では、現在、二酸化炭素排出量を削減し、将来の世代のためにレジリエンスを確保する目的で、エネルギー効率の改善活動が進められています。たとえば、一部が13世紀にまで遡る第一級指定建造物である司祭館は、エネルギー消費量の多さで際立っていました。厚い石造りの壁、木製の羽目板、オリジナルの金属枠の窓を備えたこの建物は、データに基づく評価の出発点に適していました。
建物の熱性能を解明して詳細な評価を行うために、ウェストミンスター寺院が指名したのは、多くの専門分野を網羅する不動産および建設コンサルタント会社であるKeegans社でした。Keegans社はBTSのHeat3D技術に投資し、本館のレンガ壁および石壁の増築部のU値を測定しました。
結果は驚くべきものでした。壁のU値は、予想よりもはるかに低かった(性能が優れていた)のです。たとえば、主壁(塗装仕上げの無垢レンガ壁)の予測U値は1.7 W/m²Kでしたが、実測値はわずか0.8 W/m²Kで、予想より約53%優れていることが分かりました。同様に、増築部分の13世紀の化粧石壁については、予想では2 W/m2Kでしたが、実際の値は0.9 W/m2Kで、55%の差がありました。
正確なU値データに基づく、より賢明な改修と保全の決定
U値(および空気透過性)の測定精度が上がると、調査士は顧客に対して、より正確な年間エネルギーコストの見積もりを提供できるようになります。ウェストミンスター寺院の司祭館の場合、実測に基づくキャリブレーション済みのモデルにより、年間エネルギーコストの精度が16%向上しました。そのため、予測される節約金額で1,000ポンド以上の差が出ています。これは建物1棟だけの話です。ウェストミンスター寺院は現在、同様のテストを所有資産全体に適用する予定です。
重要な点として、この知見により、二重ガラス、暖房制御の改善、的を絞ったすきま風対策などといったアップグレードへの投資が、内部断熱材の設置と比べて費用対効果が高く、かつ十分な選択肢であるとの確信が得られました。内部断熱材の設置は不要であることも、測定によって確認されています。
「基本的にそのおかげで、司祭館の歴史的完全性を損なわずに、効率性を高めることが可能になりました」と、Luke Smithは説明します。「このデータがなければ、高コストで施工の負担も大きく、しかも不要な改修を提案してしまう可能性がありました。豪華な内装パネル、コーニスと幅木、そして装飾的な石造りの外観を考えると、断熱材の設置後の建物の構造改修だけでも、数万ポンドの費用がかかった可能性があります。」
Heat3DによるFlir One® Proを使用したU値の測定方法
Heat3Dでは、カスタマイズされたハードウェアとiOSアプリを使用してU値を計算します。iPhoneやiPadなどのモバイルデバイスを三脚に取り付け、そこに携帯型のFlir One® Proカメラを装着し、約2mの距離から壁に向けます。
システムの絶対温度測定値の精度を最大化するため、2つのキャリブレーション用ターゲットが、カメラの撮影範囲内にある壁に立てかけられた一脚から吊り下げられています。1つは、0.1°Cの精度のBluetoothセンサーを組み込んだ(つや消し)黒色の温度ターゲットです。カメラで検出可能な多数のピクセルを表現できる十分なサイズとなっています。もう1つは、放射温度ターゲット(すなわち等方性反射板)です。これは壁面が室内の他の場所から受ける可能性のある放射温度を表します。
Flir One® Proは、1時間にわたり、1分ごとに赤外線画像を撮影します。アプリがこれらの測定値を使用して、外壁の内表面全体における熱伝達量を計算します。これによって3D熱伝達マップが作成され、熱損失の定量化だけでなく、熱橋や欠陥の特定も可能になるため、その後の対策が促されます。
この完全にユニークな商用技術には、従来の熱流板法と比べて幅広いメリットがあります。15分以内ですばやくセットアップできる点、センサーが外れる可能性がない点、はるかに広い壁面を対象に熱損失を測定できる点、1時間で結果が得られる点、そしてすべてのデータがBTSのオンライン クラウドにアップロードされ、診断とデータ分析のために安全に保管される点です。
「この低コストかつ迅速で非侵襲的な手法により、建築部材の熱流やU値を測定できるため、調査費用を半分以上削減することが可能です」と、Luke Smith は述べています。「1回の現地訪問で簡単に調査を完了できます。一方、熱流板法では少なくとも2週間にわたり2回以上の訪問が必要です。また、Heat3Dの価格は、当社が提供している熱流板システムより約20%安いことも指摘しておくべきでしょう。」
検証・実証済み:Heat3Dによる赤外線U値測定の科学的な裏付け
Heat3Dは、定量的赤外線サーモグラフィ技法に関する長年の研究と実地試験から生まれました。Heat3Dと熱流板法による500件以上の測定値の比較など、広範な検証作業を通じて、堅牢かつ再現性の高い技術であることが証明されています。調査研究の多くは、サルフォード大学のエネルギーハウス施設や国立物理研究所など、評価の高い英国のパートナーと共同で行われました。当初からFlir One® Proをベースに開発が進められました。
「iOSを選んだのは、Appleの[拡張現実] ARKitを利用できる点が、私たちのプロジェクトに好都合だと考えたからです」と、Luke Smithは説明します。「また、Flir Mobile SDK を使用すると、iOS開発者がFlirのサーモグラフィおよびセンシング機能を利用するアプリを作成できます。これがきっかけで私たちはFlirの技術を採用することになり、このパートナーシップを今後も継続できることを、とても喜ばしく思っています。」
この新しい技術には、非常に大きな可能性があります。Heat3Dは、歴史的建造物の保全だけでなく新築物件にも最適で、建築業者が指定した熱性能を住宅が満たしているかどうかを確認できます。Heat3D赤外線サーモグラフィキットおよび関連トレーニングは、BTSから購入できます。BTSでは、アフターサービスおよびキャリブレーションも提供しています。